現地日本語ガイドのサロンさんの実家がある村は、シェムリアップ市街から車で1時間ちょっとののどかな農村で、おもに農業で生計を立てている人々が暮らしています。そんな村の様子をご紹介します。(文・写真:カンボジア担当)
訪問するのは300人が親戚のサムロム村!
このサムロム村の人口は約1000人。実はそのうちサロンさんの親戚が300人。八百屋さんも、肉屋の店主も、農民も、お寺の住職も小坊主も、学校の先生も生徒も、会う人会う人サロンさんの親戚で、本当にみなさんよく似たお顔をしています(笑)。
交通量の多い国道から外れ、細い土の道に入ってサロンさんの家へ向かうと、そこはまさに村の世界。井戸を中心とした農村部で見られる木造高床式の住宅が点在しています。サロンさんの家もやはり木造高床です。 到着すると、まずは床下に案内されました。高床式住居の床下の活用方法はじつにさまざま。一家がくつろいだり、食事をとったり、民具作りや機織りなどの仕事場にしたり、さらに牛などの家畜を飼育する場として使う家庭もあります。
サロンさんの家では食事や一家団欒の場として使われているようで、まずそこに通され、ほんのりと心地よく冷えたココナツジュースをいただきました。暑いカンボジアではとっても嬉しいおもてなしです。とれたてのココナツジュースはまさに新鮮そのもので、乾いた喉をするすると通り、乾いた体を潤してくれます。それもそのはず。ココナツジュースは水分吸収率が良いと言われており、カンボジアでは古くから体調が悪い時や疲れている時などに飲まれてきた国民的飲料なのです。
涼しい床下で広々とした村の風景を眺めながら味わうココナツジュースは、市内のレストランで飲むものとはまた違って格別の味でした。たっぷりジュースを飲んだあとは、割ってもらって果肉を食べることもできます。ナタデココの原型です。プリプリでとってもおいしく、さらに美容にも良いんですよ!
さて、次は村の散策です。わくわくします!
元気いっぱいの子どもたちが集まってきました。いい香りに誘われてお家にお邪魔してみると、やし砂糖を作っていました。実はこのおじさんのヤシ砂糖はちょっと有名で、シェムリアップの街からもわざわざ買いに来る人がいるそうで、100%手作りのため大量生産はできないのだそうです。
お米のもみ殻で絶妙な火加減でふつふつとヤシ砂糖が煮詰まっていきます。作り手のおじさんは内戦時代にロケット弾によって、顔の半分を失くされています。激動の時代を生き抜いてこられたおじさんのやし砂糖は優しい甘みと深いコクがあり胸がいっぱいになりました。生キャラメルの様なおじさんのヤシ砂糖。そのまま食べても良し!煮込み料理に使用するとコクがあってまろやかな味わいになります。
▲命綱は一切ナシ!の職人仕事
実は、ヤシ砂糖の原料になる花の蜜が採取できるのは、乾季(11月上旬~5月上旬頃)だけなのです。この季節のサムロム村では採取の見学もできます。高~いヤシの木に登ってひとつひとつ採取した花のつぼみの液を煮詰めて作るヤシ砂糖は、まさにオーガニック。街に暮らす人達もわざわざ買いに来るほど美味しいと評判で、採れたてのヤシ砂糖は乾季のみの逸品です!
★ 詳細はカンボジア担当ササキのブログ「サムロム村の絶品ヤシ砂糖」で!⇒ https://skapit.exblog.jp/26597720/
いよいよ牛車体験!
サロンさんのお宅から少し離れた農道で、大きな車輪のついた木造の牛車が待っていてくれます。簡素な構造ですが、近くで見るとその大きさや威風堂々とした佇まいに迫力を感じました。二頭立ての牛車で進行方向には茶色と白っぽい肌の牛がつながれています。立派な角と大きな体がとてもたくましく見えますが、性格はいたって穏やかなようで、クリクリとした黒い小さな目が哀愁を誘います。
さらに先へ進むと、村の大人や子どもが元気いっぱいの笑顔で手を振りながら声をかけてくれました。初めて訪ねた村ですが、村人の温かな歓迎を受けているようで、なんだかとても嬉しくなったと同時に、村人たちとの距離感がしばらく帰っていない実家に戻ってきたかのような懐かしい気持ちにさせてくれました。村には世界遺産のような名所はありませんが、外から来た人を温かく見守ってくれるような人々の気持ちは、文字通り、ここにしかない魅力だな、そんなことを考えました。
ところで、カンボジアの農村で現在も現役で活躍している牛車ですが、いつごろからカンボジアの人たちが暮らしの中で使ってきたかご存知でしょうか??そのヒントはアンコール遺跡にあるのです。アンコール時代に都が置かれていたとして知られる都城遺跡アンコールトム。その中心寺院バイヨン(12世紀末建造)の回廊には、アンコール時代の人々の暮らしが鮮やかに描かれていますが、そこにも牛車の姿が!つまり、カンボジアの村では900年以上前から現在に至るまで牛車が人々の生活とともにあるということがわかります。
900年前と言えば、平安後期から鎌倉時代です。今、まさに数百年も前から活躍していた乗り物に私は乗っている!そう考えると、あたかも古代にタイムスリップしたかのような錯覚にとらわれ、思わず大興奮してしまいました。
【動画】牛車に揺られてカンボジアの農村散策
たくさんの村人と触れ合えたことがなにより楽しく、村の子どもたちは人懐っこくキラキラの笑顔で元気を与えてくれました。
サムロム村では街中では体験できないことが盛りだくさん。せっかくカンボジアを訪れたなら遺跡だけではなくぜひ訪れてほしい村。そして出会って欲しい村人たち。シャイな村人たちとの交流から、たくさんのことを学べる気がします。あぁ、早くまた行きたいな…。